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最近、脂肪肝の診療をしていて感じたことがあります。
それは外見からは肥満を認めない若い男性の方が検診などで脂肪肝・肝機能障害を認め受診されてケースが増えていることです。
通常、非アルコール性脂肪肝疾(NAFL)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は男性ですと内臓脂肪が増える40-50代をピークに認め、女性ですと閉経後の50歳以後に疾患が増加致します。
それでは、最近増えている外見的には肥満を認めない若い男性の脂肪肝や肝機能障害が何によって生じているのか、従来の脂肪肝・NASHの考え方ではわかりづらい状況でした。
その答えの一つが判明してきました。
先日、糖尿病と肝疾患の研究会に参加したのですが、そこで順天堂大学の演者の先生から「会場の先生方は脂肪肝の専門家で、肝については造詣も深くよく診られていますが、肝を診るだけでなく筋の状態もしっかり把握してください」とのご意見を頂戴しました。
それというのも、食事から摂取したカロリーの多くは筋肉で消費されます。学生の頃、多運動をしていて筋肉もしっかりあり、また筋肉によりエネルギーが消費されているうちは多少食事の量が多くても筋肉でしっかり消費されるので問題ないですが、その方々が就職して運動習慣が減ってしまい筋量や筋によるエネルギーの消費が減ってしまっても食事量は減らずに変わらず食べしまっているケースが多いそうです。そうすると筋で消費できなかった過剰なカロリーが内臓脂肪や異所性脂肪としての脂肪肝として蓄えられてしまう現象が生じてしまうとのことでした。
だから、脂肪肝の患者様を診察したら、その方の筋量をきちんと把握することはとても重要であるとの講演内容でした。
たしかに、以前からもともと運動をしていた方が運動をやめてしまう方が、もともと運動をしていない方よりもメタボが生じやすいということは疫学調査から報告はされていました。正直、なんで運動をしていたヒトのほうが、していないヒトよりも糖尿病などのメタボになりやすいのか疑問を感じていました。ただし、これは実際の調査による結果なので理屈でなく事実であり、受け入れるしかありませんでした。
今回の講演を聞いて、当院も脂肪肝を診るだけでなく、筋肉の状態も把握しなくては感じました。
当院は大学病院と異なり従業員数人の小規模クリックです。
そのため、「これは良い!」と思ったことはすぐに実行できるフットワークの軽さが武器であると思っております。
そのため、以前から当院で導入したくはあったのですが、機器費用が高額なために導入を見送っていた体組成計「Inbody 770」を導入致しました。
また、別の研究会で日本の肝臓移植の中心的役割をになっている京都大学の肝移植チームの先生のご講演を拝聴する機会も最近あったのですが、そこでも肝移植が成功し、その後もその患者様が生存できるかどうかに、何の要因が関わってくるのか統計処理をおこなったところ、重要な因子として肝移植の術前にその患者様がどれだけ筋肉量を保持しているかが大きく予後をわける因子であったとのことです。
ちなみに、京都大学の肝移植チームも当院が導入した「Inbody 770」をもちいて筋量の測定をしているとのことでした。
研究会後、演者の先生に
(小生)「どうして筋量が十分にあると肝移植の予後がよくなったとお考えなのですか? どんな現象が生じているとお考えですか」と質問しました。質問することも大変有名な先生なのでお話ししたい先生も多く質問しに行くのは困難だったのですが。
その先生の回答は
(演者)「おそらく筋組織から肝臓に対して何らかの肝を保護する物質がでているのではないかと想定しています」との回答でした。
(小生)「筋が分泌する物質ですとマイオカインの何らかと考えてよいのですか?」と質問したら、
(演者)「そう考えて良いと思います」
(小生)「京都大学ではその物質を同定しましたか?」
(演者)「これから行おうと思っておりますが、まだできていません」
とのことでした。
以前から重要とは考えてはいたのですが、やはり筋肉から分泌される物質(マイオカイン)が肝になんらかの影響を与えているのかもと考えられて、運動療法の重要性を考えてもさらに小生もこの領域を勉強しなくては深く感じました。
ここで、京都大学や順天堂大学でも使用している「Inbody 770」についてご説明させていただきます。
Inbody 770はインピーダンス法を用いてカラダの水分、筋、脂肪を測定できる医療機器で、日本では現在のところInbody 770のみが保険請求ができる(医療保険として使用可能な)体組成計です。
以下にInbody 770が如何なる体組成計であるか説明させていただきます。
Inbod770は、体を構成する基本成分である体水分、タンパク質、ミネラル、体脂肪を定量的に分析し、栄養状態に問題がないか、体がむくんでいないか、身体はバランスよく発達しているかなど、人体成分の過不足を評価する検査です。これらの均衡がとれている時に、我々の体は健康な状態といえます。
健常者の体重の約50~70パーセントは水分であり、体水分は摂取した体の細胞に届け、老廃物を外に老廃物を排出する役割がありますが、細胞内水分と細胞外水分の均衡が悪くなるとむくみの原因ともなります。
タンパク質は体水分と共に筋肉を構成する主な成分であり、タンパク質の不足は細胞の栄養状態がよくないことが言えます。
ミネラルが不足していると骨粗鬆症や骨折の危険性が高まります。
また、食事で摂取した栄養素はエネルギーとして使われますが、余分なエネルギーは蓄積され、肥満の原因にもなります。
Inbody 770の部位別直接インピーダンス測定法は、人体を右腕・左腕・体幹・右脚・左脚の5つの箇所に分けて測定する技術です。長さと断面積と異なる各部位を個々に測定するため、どの体型でも同じ精度で、よりより短時間での分析が可能です。
当院に設置しているInbody770は、世界70カ国以上の医療施設や大学・企業の研究施設などで、臨床検査・臨床試験・栄養指導・健康指導のツールとして使用されており、高い精度の測定が可能です。
Inbody 770の特徴は微細な数値を測定することができ、体の四肢の筋肉量と水分量の数値の測定が可能なことで、浮腫を伴う患者様にも高い相関が示されています。また、心不全、腎不全、メタボリックシンドローム、などの診断に重要な情報を得ることが可能であり、病気の早期発見につながる事と思います。
浮腫など、持病をお持ちの方は、月1回まで保険診療での測定が可能です。
測定結果をもとに院長から結果説明とアドバイスをさせていただきます。
Inbody 770で計測できる項目
体成分分析 筋肉・脂肪 肥満指標 部位別筋肉量 体水分均衡 体成分履歴 体重調整
総合評価 部位別体脂肪量 部位別水分量 研究項目 インピーダンス法
出典:インボディジャパンより一部引用
いままでの外見からもお腹に脂肪がついた中高年のヒトの典型的な脂肪肝・NASHを「第一世代の脂肪肝・NASH」と仮に規定します。
一方、学生時代運動をしていて今は仕事が忙しく運動習慣が減ってしまい、そこまで肥満や腹囲の増加をあまり認めない、最近の言葉では一見細マッチョにみえる若い男性にも脂肪肝・肝機能障害を認めることを「第二世代の脂肪肝・NASH」とあらわすとすると、この第二世代のNASHにも対応していかなくてはいけませんし、そのために当院では今後も鋭意努力していきます。
検診で脂肪肝を指摘された、肝機能障害を指摘された、最近疲れやすいなど肝臓を診てもらいたいなど、これを機会に肝臓をチェックしてみようかと思われた方は、超音波エラストグラフィーにて肝臓の硬さを測定する「肝fibroscan (肝フィブロスキャン)」だけでなく、最新の体組成計「Inbody 770」にて筋や脂肪の状態もチェックいたしますのでどうぞお気軽に受診ください。
また、これら検査の予約も行っておりますので、普段はなかなか忙しくて受診できないよという方もお気軽にお電話をお待ちしております。
蛇足ですが、わたくし自身も「美味しいものを夜中でもたくさん食べたい」、「運動の重要性はわかっているが忙しいからなかなか運動できない」、かつ「太りやすい体質」という悟りを開けないまま、俗性の世界であの手、この手で苦労をしております。
そのため、食べる楽しみも十分必要だと思っております。世間一辺倒の実現不可能な厳しい食事・運動療法を説明して終わりにしてしまうということは決して致しません。
生活の楽しさを失わない無理のない範囲で、かつ医学的根拠に基づいた方法を複数有しておりますのでどうぞご安心ください。